相続税申告の流れ
1 相続人の人数を確定させる
相続税申告をする上で、最初に行うことは、相続人の人数を確定させることです。
相続人の人数によって、相続税の申告が必要かどうかも変わってきます。
相続人の確定させるためには、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍が全て必要なため、本籍地を何度も変えている方の場合は、戸籍を集めるだけでも、1か月以上の期間が必要になることもあります。
2 財産の調査
亡くなった時に存在していた財産について、相続税が課せられます。
そのため、どんな遺産があるのかについて、詳細な調査が必要です。
たとえば、預貯金の残高を調べたり、証券会社に株がないかを調べることになります。
また、債務の調査も同時に行う必要があります。
債務があれば、その分相続税の負担を軽くすることができるので、しっかりとした調査が大切です。
3 みなし相続財産の調査
死亡保険金や、死亡退職金などは、厳密には遺産とは考えられていません。
しかし、相続税の申告をする上では、これらの財産も遺産としてカウントします。
そのため、亡くなった方が加入していた生命保険などを調査する必要があります。
4 財産の評価を行う
遺産の中には、評価をつけるのが難しいものがあります。
たとえば、骨董品や美術品は、どれくらいの値がつくのかは、調査をしないと分かりません。
また、上場株式についても、いつの時点での株価を相続税の申告書に記載するかは、慎重な検討が必要です。
さらに、土地の評価は非常に厄介な問題です。
税務署が定めた独特の基準に照らして、土地が何円の財産なのかを決める必要があります。
5 遺産の分け方を決める
遺産の分け方を決めないと、相続税を軽くするための特例が使えない場合があります。
そのため、相続税の申告をするまでに、遺産の分け方も決めておくことが大切です。
6 相続税申告書の作成
税務署に提出する相続税の申告書を作成します。
相続税の申告書が完成すれば、税務署に提出し、納税をします。
ここまでのことを、相続開始から10か月以内に行う必要があるため、スケジュールには注意が必要です。
相続税の申告が必要な場合とは
1 遺産が3000万円以上ある場合は、注意が必要
相続税の申告は、相続が発生した場合に、常に必要というわけではありません。
一定額以上の遺産がある場合のみ、相続税の申告が必要になります。
その目安になるのが、3000万円という数字です。
遺産総額が3000万円以下の場合、相続税の申告が不要になります。
この3000万円は基礎控除と呼ばれています。
3000万円は非課税の枠内なので、相続税が課せられないということです。
遺産が3000万円を超える場合は、相続税の申告が必要になる可能性があります。
2 相続人の数によって、相続税の申告が必要かどうか変わる
仮に相続人が1人いれば、非課税の枠が600万増えます。
たとえば、相続人が1人いれば、先程の3000万円と合わせて、3600万円までが非課税枠です。
3600万円を超えると、相続税の申告が必要ですまた、相続人が2人いれば、さらに非課税の枠が600万円増えるため、4200万円までが非課税の枠です。
4200万円を超えると、相続税の申告が必要になります。
3 不動産の評価額に注意
遺産という言葉のイメージからは、「亡くなった時の預貯金」が非課税の枠の範囲内なら大丈夫と思ってしまいがちです。
しかし、当然ながら遺産の中には、他の財産も含まれます。
たとえば、大きな財産として、不動産があります。
特に、土地については、相続税の申告をする際に使う基準で評価額を決めるため、土地がどれくらいの遺産として評価されるのかは、専門家に相談することが大切です。
4 タンス預金や名義預金に注意
仮に亡くなった方が、自宅に多額の現金を置いている場合、その現金も遺産に含まれます。
そのため、家の中をくまなく調べる必要があります。
特に、金庫が家にある場合は、金庫の中をしっかり確認しましょう。
また、亡くなった方が、家族名義の通帳にお金を入れ、管理していた場合、その口座のお金は名義預金として、遺産とみなされる場合があります。
5 生命保険や死亡退職金に注意
生命保険金や、死亡退職金は、民法上は遺産とは考えないのが原則ですが、相続税の申告上は遺産とみなされることになっています。
極端な例だと、預貯金が100万円で、生命保険金が1億円であれば、多くのケースで相続税の申告が必要になります。
6 生前贈与に注意
生前贈与した財産も、一定の範囲で、遺産とみなされる場合があります。
そのため、相続発生後は、生前贈与の有無についても、調査が必要です。
相続税の対策は税理士に相談を
1 相続税対策をしないと、ご家族が困るかもしれません
相続税の対策を万全にしておかないと、残された家族が困ってしまうことがあります。
たとえば、突然相続が発生して、5000万円の相続税を納めなければならないと言われたら、ご家族にとっては大変な負担になります。
「遺産の中に、十分な預貯金があるから大丈夫」とお考えの方は、注意が必要です。
仮に、遺産の預貯金の範囲内で相続税を支払うことができるとしても、預貯金の払い戻しができるとは限りません。
預貯金の払い戻しをする場合は、相続人全員の同意が必要になるため、遺産の分け方でもめた場合、相続人の1人と連絡がつかない場合、相続人の1人が認知症の場合などは、預貯金の払い戻しが難しくなります。
そうなれば、ご家族は自分の預貯金を使って相続税を支払わなければなりません。
このような事態を防ぐためにも、相続税の対策はしっかりと進めておかなければなりません。
2 相続税の対策は、専門的なノウハウが必須
相続税の対策を行うためには、まず「今、相続が発生したら、どれくらいの相続税を払う必要があるのか」を認識するところから始めなければなりません。
そのためには、今の財産状況を詳細に把握した上で、今後のライフプランを踏まえた検討が必要です。
また、残された家族が、遺産の預貯金を納税資金にできるよう、生前のうちから手配をしておかなければなりません。
ここで、安易に生前贈与などを行うと、多額の贈与税が課せられる可能性があるため、注意が必要です。
3 相続発生後も税理士のアドバイスは不可欠
相続が発生した場合は、いよいよ相続税の申告をすることになります。
相続税の申告をする上で、注意しなければならないのは、期限があるということです。
原則として、亡くなった時から10か月以内に相続税の申告書を作り、納税まで行う必要があります。
相続税の申告書を作るためには、遺産の調査、遺産の分け方の決定など、やらなければならないことがたくさんあります。
そのため、相続発生後は、税理士のアドバイスを受けながら、迅速に手続きを進めることが大切です。
相続税に強い税理士に依頼するメリット
1 短期間での申告が可能
病院では、内科や外科など、複数の専門分野があります。
税金でも同じく、各税理士によって得意な分野というものがあります。
もし、慣れていない分野の相談を受けた場合、税理士は、専門書で最初から勉強し、手探りで手続きを進めていくことになるかもしれません。
そうなった場合、相続税の申告書が完成するまで、余計な時間がかかってしまいます。
しかし、相続税の申告は10か月という期限があり、これを過ぎると余計な税金を納めることになります。
そのため、相続税に強い税理士に依頼し、短期間で申告書の完成を目指すことが重要です。
2 税務調査の回避
税務署は、適正な税金の徴収を使命としています。
そのため、不適切な相続税の申告をした場合、税務署が調査にやってくることがあります。
不適切な相続税の申告の例として、一部の銀行の預金を見落としていたというケースがあります。
遺産の調査の時点では、4つの通帳があったため、4つの銀行の預金だけ残高証明書を取得したもの、実は通帳を発行しないタイプの預金もあった、というのが典型例です。
このようなケースでは、遺産総額を過少申告していることになるので、差額分の税金を納めなければなりません。
相続税に強い税理士であれば、このような税務調査を回避するために、徹底的な遺産の調査を行います。
3 二次相続のシミュレーションも可能
配偶者が遺産を相続した場合、1億6000万円までは、相続税がかかりません。
この制度を利用するために、いったん配偶者に全遺産を取得してもらうといったことをする方がいらっしゃいます。
しかし、もし全遺産を取得した方が、その数年後に亡くなった場合はどうなるでしょうか。
夫婦が二人とも亡くなっている以上、配偶者控除は使うことができません。
その結果、一次相続の時は相続税が軽くても、二次相続まで考えると、相続税が高くなってしまうということも珍しくありません。
相続税に強い税理士であれば、二次相続を踏まえた検討をすることができます。
相続税の相談から申告までの期間
1 相談までの期間
ご家族が亡くなった後は、役所での手続き、お葬式、四十九日など、慌ただしい日々が続くかもしれません。
そのため、ついつい相続税の申告については、後回しになってしまいがちです。
しかし、相続税の申告には10か月という期間制限があります。
そのため、できるだけ早い段階で税理士に相談をすることが大切です。
相続発生後から3か月ほど経過したくらいで税理士に相談すると、相続税の申告で慌てることなく、手続きを進めることができます。
相続発生後3か月が経過した場合は、できるだけ早い段階で、税理士に相談しましょう。
大阪の方は、税理士法人心 大阪税理士事務所をご利用ください。
2 必要書類の取り寄せは3か月を目安に
相続税申告を行うためには、様々な書類が必要になります。
まず、亡くなった方の戸籍謄本や、相続人の戸籍謄本が必要になります。
特に、亡くなった方の戸籍謄本は、出生から死亡まで全種類必要になります。
戸籍謄本は、市区町村単位で管理されているため、本籍地が変わっている場合には、全国の役所から戸籍謄本を取り寄せる必要があります。
また、遺産の内容を調べなければならないため、不動産に関する書類や、預貯金に関する書類も集める必要があります。
もっとも、遺産に関する資料は、相続人であることの証明をしなければ、集めることができません。
そのため、遺産に関する資料は、戸籍謄本を集めてから、取得することになります。
相続人が誰なのかや、遺産の内容によって変わりますが、必要な書類を集めるための期間として、3か月程度が目安になります。
3 2か月で相続税の申告書を作成する
必要な資料が集まった後は、相続税の申告書を作成します。
相続税を軽減するための制度を活用しつつ、適切な納税額を計算しなければなりません。
特に、土地については、評価の方法によって金額が変わることがあるため、慎重な検討が必要です。
必要な書類が集まってから、相続税申告書を作成するまでに必要な期間は、2か月程度が目安になります。
相続税の相談は不動産評価に強い専門家に
1 不動産の評価が重要な理由
⑴ 不動産は預貯金等と違い評価額を下げることが可能
相続税は、遺産の総額が少ない方が、相続税の金額が下がるという制度になっています。
しかし、たとえば亡くなった時に預貯金が1000万円あった場合、その預貯金は1000万円の評価になり、これを変えることはできません。
他方、不動産は、必ずしも評価額が決まっているわけではなく、場合によっては、評価額を下げることができます。
もし、不動産の評価額を下げることができれば、相続税を軽減することが可能です。
⑵ 不動産の評価方法は複雑
不動産の評価は、様々な方法があります。
たとえば、土地の立地条件、地形の状況などによって評価額は異なってきます。
そのため、どんなルールを採用し、どういった評価をするのかは非常に高度な知識と経験が必要になります。
しかし、適切に不動産を評価すれば、相続税を軽減できる可能性がある以上、複雑なルールを把握し、適正な相続税の申告書を作る必要があります。
2 税金の専門家が不動産評価に詳しいとは限らない
会社関係の税金業務など、相続税以外の業務の中では、不動産の評価が必要になる場面は、あまり多くありません。
つまり、相続税の申告以外の業務を中心に扱っている専門家は、必ずしも不動産の評価に詳しいとは限りません。
反対に、相続税の申告をする際は、ほとんどの場合で不動産の評価が必要になります。
そのため、相続税を中心に扱っている専門家であれば、不動産評価のノウハウも蓄積されており、適切な不動産評価が可能です。
3 相続に関する法律に詳しくない専門家に注意
相続税の申告を扱う上では、相続に関する法律の知識が不可欠です。
そのため、相続税の申告を多く扱っていれば、その分、相続に関する法律についても詳しくなります。
その反面、相続に関する法律に詳しくない専門家は、相続税の申告をあまり扱ったことがない可能性があり、不動産評価についても詳しくない可能性があります。
そのため、相続税の申告を専門家に依頼する場合は、その専門家が相続に関する法律に詳しいかどうかを確認することをおすすめします。
各専門家が連携できることの強み
1 税理士のアドバイスだけでは対処できないことも
相続税の申告を行う場合、遺産の分け方についても、同時並行で協議していくことが多いと言えます。
しかし、遺産をどのように分けるのかという点は、税金の問題ではなく、法律の問題になるため、税理士はアドバイスができないとされています。
特に、遺産の分け方について、相続人同士でもめてしまった場合、税理士は一切立ち入ることができません。
また、遺産の中に不動産がある場合は、不動産の名義変更が必要になりますが、税理士は、不動産の名義変更を行うことが認められていません。
そのため、相続手続を進めるためには、税理士の力だけでは足りない場面があります。
2 最初から各専門家が相談に同席することが可能
税理士と他の士業など、各専門家が連携している事務所であれば、初回の相談から、各専門家が相談に同席することが可能です。
そうすれば、相談者の方からご事情を伺うのは1回で済みますし、必要な資料は、各専門家で共有することができるため、必要以上に多くの資料を集めていただく必要がなくなります。
もし、各専門家が連携していない場合は、相談者の方が各専門家の事務所を個別に訪問し、最初から事情を説明し、必要な資料も複数用意しなければならなくなり、大変な労力が必要になります。
3 あらゆる面から最適な見通しを立てることが可能
たとえば、医療の世界では、チーム医療という言葉があります。
様々な分野の専門家がチームを組み、各方面からの意見を出し合うことで、最適なサービスを実現するための制度です。
相続の場面では、相続税の申告、遺産の分け方、不動産の名義変更、預貯金の解約手続きなど、様々なことを同時に解決していかなければなりません。
そのため、同じように、複数の専門家の協力が重要なポイントになります。
最初の相談から、税理士を含む複数の分野の専門家が相談に入ることで、今後の相続手続全般について、最適な見通しを立てることができます。
相続税の対策の一例
1 現金を土地に変える
たとえば、2億円の現金を持って亡くなった場合、その現金は2億円の遺産と評価されます。
では、生前のうちに、この2億円を使って、2億円の土地を買った場合はどうなるでしょうか。
一見、2億円で土地を買ったのだから、相続税の申告の際も、その土地は2億円の土地として、申告することになりそうです。
しかし、相続税の申告の際は、国税庁が決めた基準に従って土地を評価することになります。
高値がつきやすい都市部の土地であれば、路線価という基準が用いられます。
この路線価は、土地の時価の8割くらいが目安と言われています。
そのため、2億円の土地が、相続税の申告の際には、1億6000万円の土地であると評価され、結果として遺産総額が4000万円減ることになります。
その結果、遺産が見かけ上、目減りしたような状態になり、その分、相続税が下がることになります。
2 現金を建物に変える
仮に1億円の現金を持っていた場合、その1億円が遺産としてカウントされます。
しかし、1億円でアパートを建築すると、多くの場合、そのアパートの評価額は1億円を下回ります。
たとえば、1億円で建築したアパートが、6000万円の評価額になった場合、4000万円遺産を圧縮できたことになります。
遺産の圧縮ができれば、その分、相続税の負担を軽くすることができます。
つまり、現金を建物に変えることで、相続税の対策が可能なのです。
3 アパート経営の注意点
アパート経営がうまくいけば、家賃収入が入る資産を残すことができます。
その反面、空室が目立つなどの理由で、ローンの返済さえ難しいような場合は、負の財産として、次の世代に引き継がれる可能性もあります。
また、早い段階からアパート経営をして、ローンを完済したり、家賃収入がたまってきてしまうと、むしろ相続税が上がってしまう可能性もあります。
アパート経営は、メリットとリスクを慎重に見極める必要があります。
相続税対策でどのようなことができるか、どの方法が適切かなど、気になることがありましたら、一度税理士にご相談ください。